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アメリカ歴代大統領研究ポータル

副大統領

アメリカ大統領の給料


大統領の報酬はどのように決まったのか

 大統領に給料を支給することは合衆国憲法で定められている。したがって、大統領の給料は憲法によって保障されている権利である。ただ憲法には具体的な額面は指定されていない。憲法ではなく連邦法によって額面が決定されている。時代によってお金の価値が変動するのでそのほうが便利である。
 憲法制定会議では、アメリカ大統領の給料についてどのような議論があったのか。最も有名な論はベンジャミン・フランクリンによるものだ。フランクリンは大統領を無給にすべきだという考えを示した。その理由は、もし大統領を高給にすれば、お金が欲しいという理由で大統領になる者が現れるかもしれない。そうした弊害を避けるためにも大統領を無給にすべきだとフランクリンは訴えた。しかし、フランクリンの案は現実的ではないとして採用されなかった。
 初代アメリカ大統領ジョージ・ワシントンは経費のみの支払いを受けて、給料は受け取らないという方式を提案した。実はワシントンは大陸軍総司令官を務めている時、無給で働いている。ただ経費の支払いは受けている。戦争後にワシントンが連合会議(現在の連邦議会の前身)に請求した経費は莫大な額に上った。機密費も含まれているので経費の内訳はかなり不明確であった。
 それに懲りたのか連邦議会は、経費のみを請求したいというワシントンの提案を斥けて、大統領に給料のみを支給する形式を採択した。文字通り給料のみであり、経費は実質的になかった。経費が支給されたとしても大統領官邸の修繕費や調度費くらいである。

時代によって異なる大統領の給料額

 以下の表はアメリカ大統領の給料額の変遷である。こうした給料額は、諸外国の同様の官職に比べるとそれ程、高額ではない。また1949年に季節毎であった支払いが月毎に変更された。つまり、アメリカ大統領は月給制である。
 1969年には本給と経費の他、1万2,000ドルの娯楽費と10万ドルの旅費がそれぞれ非課税で与えられるようになった。もちろん現代ではホワイト・ハウスやエア・フォースの運営費は別予算である。

決定日 年間給料総額 備考
1789年
9月24日
2万5,000ドル  大統領官邸に関わる経費、個人秘書の人件費などはすべて大統領が負担する。
1873年
3月3日
5万ドル   
1909年
3月4日
7万5,000ドル 
1949年
1月19日
10万ドル+
経費5万ドル 
経費は非課税だったが1953年1月20日より課税対象に
1969年
1月20日
20万ドル+
経費5万ドル 
1979年以来、経費は非課税になったが、未使用分は国庫に返納。 
2001年
1月20日
40万ドル+
経費5万ドル 
アメリカ大統領の給料

アメリ大統領には給料の他にも特典がある

 年俸40万ドルは、一般人からすれば多く見えるが、大リーガーの平均年俸の半分にも満たない。現在、アメリカ大統領は世界で最も権力を持つ官職だからそれではいかにも少ない。
 ただ大統領には給料の他に様々な特典が用意されている。まず評価額3億ドル以上のホワイト・ハウスに住むことができる。ホワイトハウスには132部屋あり、温水プール、ジム、ボーリング場、映写室、図書室、医療室、歯科治療室、理髪室と何でもそろっている。約100名近くの専属スタッフがいて、彼らの給料だけで年間300万ドル以上に上る。それにチェスター・アーサー大統領が言ったように「こんな家には住みたくない」と思えば改造も思いのままである。もっとも現代のホワイトハウスには年間150万人以上の観光客が訪れるので、本当にプライベートな区域はごく一部に限られている。
 さらに大統領専用車、大統領専用ヘリコプター「マリーン・ワン」、大統領専用ジェット機「エアフォース・ワン」も準備されている。エアフォース・ワンでは、映画、テレビ、音楽といろいろ楽しめるが、「エアフォース・ワンに搭乗」と印字されたカードで遊ぶこともできる。総経費は年間で2億ドル近くかかる。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領がブロッコリはメニューから外せと指示したように料理の細かい指定さえできる。

大統領は給料に見合うだけ働いているか?

 これだけ至れり尽くせりであれば、大統領はさぞかし懸命に働いているに違いない。実はそうとも限らない。第23代大統領ベンジャミン・ハリソンは、朝9時に執務を始め、お昼頃には執務を終わらせていた。実質労働時間は2、3時間である。第30代大統領カルヴィン・クーリッジは1日の平均睡眠時間がなんと11時間だったそうだから、あまり働いていなかったはずだ。ジョン・ケネディ大統領も朝7時から働いてはいたとはいえ、午後は昼食を取った後、水泳をし、お昼寝をして午後遅くになってようやく執務に戻ったというからそこまで長時間は働いていなかったかもしれない。
 もちろん勤勉な大統領もいる。たとえばハリー・トルーマン大統領は次のように言っている。
「私の気晴らしは働くことであり、働き過ぎで体調を崩した者がいたとは聞いたことがない。人間を駄目にするのは労働の欠如だ」
 さらにジェームズ・ポークは若い頃から浮いた噂もなければ趣味もない政治一筋の人間だった。大統領になったポークは夏休みもとらず毎日毎日12時間から14時間も働き続けた。ポークは任期終了後4か月も経たないうちに病死した。歴代アメリカ大統領の中で暗殺を除けば最も短命である。一説によると過労が原因だという。それだけ一生懸命に働き、数多くの業績をあげたのにポークの知名度はぱっとしない。少し気の毒のような気がする。

参考:世界の元首の給料と比較

 アメリカ大統領の給料は他の元首の年俸と比較して多いのか。例えば20世紀初頭の各国の元首の収入は以下のようになる。

国家元首の給料(20世紀初頭)
年間報酬総額
ロシア皇帝 817万9,000ドル
ドイツ皇帝+プロイセン国王 65万ドル+315万ドル
イタリア国王 320万ドル
イギリス国王 310万5,000ドル
スペイン国王 185万ドル
ベルギー国王 87万5,000ドル
オランダ国王 52万5,000ドル
デンマーク国王 34万5,000ドル
フランス大統領 24万ドル
アメリカ大統領 7万5,000ドル
※20世紀初頭にアメリカで発行された新聞を元に作成。「我が国の大統領の給料がいかに低いか」を示すために作られたデータなのでアメリカ大統領が最下位に置かれるようになっている。

 さて現代の国家元首の給料はどうなっているだろうか。国家元首と行政府の長の両方が含まれている。

国家元首の給料(現代)
年間報酬総額
イギリス国王(国) 4,280万ドル
日本天皇(国) 内廷費約300万ドル(3億2,400万円)
宮廷費約約5,000万ドル(55億円)
シンガポール大統領(国) 300万ドル
シンガポール首相(政) 170万ドル
オーストラリア首相(政) 50万7,000ドル
オーストラリア総督(国・代) 42万5,000ドル 
コモロ大統領(国) 40万8,000ドル
アメリカ大統領(国) 40万ドル
オーストリア大統領(国) 36万7,000ドル
日本首相(政) 36万7,000ドル
アイルランド大統領(国) 34万ドル
中国国家主席(国) 2万2,000ドル
※経費や純収入の考え方が各国で異なるので本来は正しい比較が難しい。したがって、この表はあくまで概観である。
※最新のデータを参照しているが年度が違う場合もある。

参考:アメリカ国内の他の官職と比較

 他国の国家元首と比較するとアメリカ大統領の給料はあまり多くないように見える。アメリカ国内で比べるとどうか。ちなみに東京都知事の年俸は1ドル=110円のレートで計算すると約23万ドルになる。
関連記事  アメリカ各州の議員報酬

アメリカ国内の官職の給料
※凡例
 行政府(赤)、立法府(青)、司法府(緑)、中央(濃)⇒地方(淡) 
大統領 40万ドル
サンフランシスコ市長 30万2,400ドル
連邦最高裁判所長官 26万700ドル
連邦最高裁判所判事 24万9,300ドル
ロサンジェルス市長 23万9,933ドル
副大統領(連邦上院議長を兼務) 23万7,700ドル
ヒューストン市長 23万4,031ドル
カリフォルニア州最上級裁判所判事 23万3,888ドル
ニュー・ヨーク市長 22万5,000ドル
イリノイ州最上級裁判所判事 22万4,628ドル
連邦下院議長 22万3,500ドル
ハワイ州最上級裁判所判事 21万8,820ドル
シカゴ市長 21万6,210ドル
連邦巡回裁判所判事 21万5,400ドル
ニュー・ヨーク州最上級裁判所判事 21万3,600ドル
ワシントンD.C.最上級裁判所判事 21万3,300ドル
フィラデルフィア市長 21万806ドル
閣僚 20万5,700ドル
アラスカ州最上級裁判所判事 20万5,176ドル
ペンシルヴェニア州最上級裁判所判事 20万3,409ドル
連邦地方裁判所判事 20万3,100ドル
ワシントン市長 20万ドル
FRB議長 19万9,700ドル
連邦議員(院内総務) 19万3,400ドル
ヴァージニア州最上級裁判所判事 19万5,428ドル
デラウェア州最上級裁判所判事 19万2,360ドル
ペンシルヴェニア州知事 18万7,818ドル
コネティカット州最上級裁判所判事 18万5,610ドル
ニュー・ジャージー州最上級裁判所判事 18万5,482ドル
テネシー州最上級裁判所判事 18万2,508ドル
テネシー州知事 18万1,980ドル
ワシントン州最上級裁判所判事 17万9,432ドル
FRB理事  17万9,700ドル
ニュー・ヨーク州知事 17万9,000ドル
イリノイ州知事 17万7,412ドル
大統領主席補佐官 17万6,461ドル
メリーランド州最上級裁判所判事 17万6,433ドル
マサチューセッツ州最上級裁判所判事 17万5,984ドル
ロード・アイランド州最上級裁判所判事 17万5,879ドル
シアトル市長 17万5,320ドル
ニュー・ジャージー州知事 17万5,000ドル
ヴァージニア州知事 17万5,000ドル
ユタ州最上級裁判所判事 17万4,950ドル
連邦議員 17万4,000ドル
※最新のデータを参照しているが年度が違う場合もある。
※アラバマ州知事ロバート・ベントレーのように「失業率が5.2パーセントを切るまで給料を受け取らない」といった公約による無給もある。

参考:退職後の特典

 1958年の元大統領法に基づいて、アメリカ大統領は退職後に年2万5,000ドルの年金と事務所とスタッフの費用として年5万ドルを受け取れるようになった。それまでは初代大統領ジョージ・ワシントン以来、そうした特典はなく、ユリシーズ・グラント大統領は破産しかけたために自伝を書いてその印税で何とかしのぎ、カルヴィン・クーリッジ大統領は退職後に月36ドルの賃貸住宅に移らなくてはならなかった。ハリー・トルーマン大統領も退職後、ミズーリの自宅に帰るまでの鉄道料金を自分で支払っている。
 さらに1989年1月以来、すべての大統領は閣僚の給料相当額の年金を受け取っている。例えばウィリアム・クリントン大統領の年金は18万4,900ドルである。さらに退職後30ヶ月は15万ドルを事務所とスタッフの費用として受け取り、その後は年9万6,000ドルを受け取ることができる。大統領の未亡人も2万ドルの年金を受け取る。
 その他にも、政治的なものでなければ郵便を無料使用できる。これは元大統領が多くの手紙に気がねなく返信できるようにするためである。1988年以降、大統領から元大統領への公的立場の移行を速やかにするために基金(2001年で183万ドル)から割り当て額を受け取ることができる。
 安全保障については1962年にシークレット・サービスによる護衛が決定され、1965年には期間が終身になり、配偶者、16歳以下の子供にまで護衛対象が拡大された。配偶者も再婚した場合を除いて終身護衛を受けることができる。
 その後の法改定により、1997年1月1日以降に就任した元大統領と配偶者は10年間の護衛を受けることができるが、その後、財務省の許可があれば護衛は延長される。ただし、元大統領本人については年100万ドルまで、配偶者については年50万ドルまでに予算が限られる。
 一般調達局(General Services Administration)は元大統領の事務所費用を負担しているが、その場所や規模については明確な規定がない。2006年度の予算はそれぞれ、ジミー・カーター元大統領10万2,000ドル、ブッシュ元大統領17万5,000ドル、クリントン元大統領47万3,000ドルとなっている。一般調達局の報告では1977年から2000年で元大統領とその家族に対して総計3億7,000万ドルを費やしたという。こうした莫大な予算はしばしば問題となっている。