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アメリカ歴代大統領研究ポータル

テディベアの名前の由来

ホワイト・ハウスのペット達


多種多様なファースト・ペット

 ホワイト・ハウスのペットはファースト・ペットと呼ばれるが、イヌやネコのようなありふれたペットだけではなく珍しいペットもいる。最もたくさんのペットを飼っていたのは、セオドア・ルーズベルトの家族だ。アナグマ、コンゴウインコ、ポニー、ネコ、ヒョウ、ワニ、ゾウガメ、オオトカゲ、ヘビ、テンジクネズミ、ハムスターとありとあらゆる種類のペットを飼っていた。
 中でもポニーはルーズベルトの子供たちに大人気で、ホワイトハウス内のエレベーターにポニーを乗せて登ったり降りたりしていたという。ホワイトハウスのスタッフはさぞかし大変だっただろう。

ポニーに乗るクウェンティン・ルーズベルト
ポニーに乗るクウェンティン・ルーズベルト
 ケネディ一家もたくさんのペットを飼っていたことで知られている。少なくともイヌ四匹、ネコ一匹、カナリア一羽、ポニー三頭、ハムスター二匹を飼っていたという。ケネディ自身は動物の毛アレルギーだったというから大変だったに違いない。
 もちろん大人しいペットもいる。ジョン・クインジー・アダムズの妻ルイザはロシア皇后から贈られたカイコを飼っていた。
 トマス・ジェファソンはマネシツグミをこよなく愛した。
 カルヴィン・クーリッジの妻グレイスはアライグマを飼っていた。
 ジェームズ・マディソンはオウムに「憲法」という言葉を覚えさせた。「憲法の父」の異名を持つマディソンらしい。
 ジョージ・ワシントンはスペイン国王から贈られたロバを大事にしていた。
 ジョン・タイラーは愛馬「将軍」を殊のほか愛し、自宅の裏に手厚く葬り墓碑銘まで刻んだ。
 ベンジャミン・ハリソンはヤギに引かせた車に子供を乗せて遊ばせた。一度などは、ホワイトハウスの外に逃げ出したヤギをハリソン自らが追いかけることもあった。

ヤギ車で遊ぶハリソンの息子と孫達
山羊車で遊ぶハリソンの息子と孫達
 数あるファーストペットの中でも一番役に立ったのは、ウッドロウ・ウィルソンが飼っていたヒツジの群れだろう。ウィルソンはヒツジの毛を刈って売り、約10万ドルを赤十字に寄付した。

ホワイト・ハウスで飼われていた羊
ホワイト・ハウスで飼われていた羊
 またウィリアム・タフトはウシを飼っていてそのミルクを飲んでいた。
 ペットのみならず大統領は諸外国から友好の証として動物を受け取ることがある。リチャード・ニクソン大統領が中国からジャイアント・パンダを贈られたのが代表的な例である。そうした動物は国立動物園で飼育されている。

最も有名なファースト・ペット

 こうした多種多様なファースト・ペットの中でも最も有名なのは、フランクリン・ルーズベルトの愛犬ファラである。犬の場合はファースト・ドッグと呼ばれることが多い。

ホワイト・ハウス内のルーズベルトとファラ
ホワイト・ハウス内のルーズベルトとファラ
 1944年の大統領選挙で共和党は、ファラについてルーズベルトを非難した。つまり、ルーズベルトがアリューシャン列島にある基地を視察しに行った際にファラを置き忘れたことに後で気付いて駆逐艦を迎えに行かせたという非難である。そのせいで2,000万ドルの費用が掛かったという。そうした非難に対してルーズベルトは次のように答えた。

「共和党の指導者達は、私や妻、息子達を攻撃するだけでは満足できないようだ。それだけでは満足できずに彼らは今度は愛犬のファラまで攻撃しようとしている。もちろん私は攻撃されることに怒っているわけではなく、私の家族も怒っていないが、ファラはきっと怒っている。ご存知の通り、ファラはスコットランド生まれで、スコットランド生まれであることに誇りを持っているので、議会の共和党の嘘話の書き手が、私がファラをアリューシャン列島に置き忘れて納税者に200万ドル、300万ドル、800万ドル、もしくは2,000万ドルも払わせたというでっちあげを聞いたらどう思うだろうか。ファラのスコットランドの魂は激越だ。ファラはこれまでとは違う犬になってしまう。私自身に関する悪評には慣れている。それには我慢できる。しかし、愛犬に関する名誉棄損に反対して怒る権利を持っていると思う」

 これは「ファラ演説」と呼ばれる演説である。後にニクソンが副大統領時代に行った「チェッカーズ演説」とともに犬が登場する演説として名高い。
 もちろんファラのために駆逐艦を迎えに行かせたというのは共和党がでっちあげた噂であるが、それをルーズベルトは逆手に利用して選挙運動を活気付けた。その結果、ルーズベルトは四選という空前絶後の偉業を達成した。
 ファラはルーズベルトが親戚からクリスマスのプレゼントしてもらった黒いスコティッシュ・テリアで大統領が行くところはどこでも付き添った。正式名称は、「ファラヒルの無法者マレー」である。それはルーズベルトの先祖の名前である。
 ルーズベルト夫人はホワイト・ハウスの中に犬を入れたがらなかったが、大統領は断固としてファラの存在を認めさせたという。ファラは忠犬としても知られていて、常に主人のベッドの足元で眠り、主人以外から餌をもらわなかった。ルーズベルトは、毎朝、ホワイト・ハウスの調理スタッフが朝食とともに持って来る骨をファラに与えるのが日課だった。
 ファラは非常に人気があるファースト・ドッグで全国から数千通の手紙を受け取った。もちろん犬は手紙で返事を送れない。そこでトレーナーが秘書に任命され、手紙の返信を手伝った。
 ルーズベルトとファラの絆は非常に固かった。その様子をある者は次のように回想している。

「私は父[サミュエル・ローゼンマン]、大統領、そして、ファラと一緒に大統領の列車に乗った。我々は列車の後方の展望車に座った。父と大統領は話していた。ファラは床にすねたようにうずくまっていた。ファラは我々にまったく関心を払っていない様子だった。ファラは傷心のように見えた。大統領も楽しそうではないと私は気付いた。私が父のほうを見ると、父は私が座っていた椅子からどくようにせわしく身振りした。私がどくと驚いたことに、ファラが私が座っていた椅子に跳び乗った。それからファラは上機嫌になった。大統領も笑って楽しそうに見えた。どうやら私はファラ用の椅子に間違って座ってしまったようだ」