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歴代アメリカ大統領の中で辞任した大統領の例は、第37代アメリカ大統領リチャード・ニクソンのみである。ウォーターゲート事件が発端となって1974年8月9日に辞任した。それは議会の弾劾による罷免を避けるための政治判断である。
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(上)最後に挨拶するニクソン
(右)ホワイト・ハウスでの別れ |
ウォーターゲート事件で争点となったのは司法妨害である。司法妨害は大統領権限の濫用と見なされるので、もしニクソンがそのまま辞任せずに議会の判断を待っていれば確実に罷免されただろう。
合衆国憲法の規定に基づいて、大統領が辞任した後は副大統領が職務を引き継ぐ。ニクソンの場合はジェラルド・フォードが後を引き継いだ。
ニクソンの辞任について記者団に説明するフォード
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ちなみにフォードは選挙を経ずに副大統領になっている。それは前任者のスピロー・アグニュー副大統領が辞任したために、大統領の指名と議会の承認でフォードが副大統領に就任したからである。したがって、まったく選挙を経ていない者が大統領になるという珍しい例となった。
就任後、フォードは大統領権限を行使してニクソンに恩赦を与えた。そうした判断は不評を買い、フォードの支持率が急落した。
大統領の辞任は憲法に明記されている。しかし、ニクソンのような事例は想定外であった。なぜなら初代大統領のジョージ・ワシントンは、連邦政府の基礎が確立すれば辞任するつもりであった。つまり、世論の圧力を受けて大統領が辞任に追い込まれるのではなく、大統領自身が必要と判断して辞任するという事例が想定されていた。もしワシントンが任期途中で辞任していれば、後世の大統領もそれに倣っていたかもしれない。
ちなみにアメリカ大統領は議会の弾劾により罷免される可能性があるが、過去に弾劾が成立し罷免された事例はない。弾劾による罷免の可能性があったのは、ニクソンの他にアンドリュー・ジョンソン大統領とビル・クリントン大統領の二人である。
問題点として議会の弾劾は党派色が強いという点が挙げられる。ジョンソン大統領とクリントン大統領のいずれの事例も弾劾に積極的であったのは対立政党であった。したがって、大統領として不適格な行動を取ったがために弾劾されるとは限らない。今後もそうした問題は解決されずに残るだろう。 |
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