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アメリカ歴代大統領研究ポータル

最長任期の大統領

歴代アメリカ大統領の中で最短の任期は?


ウィリアム・ハリソン大統領の事例

 ウィリアム・ハリソン大統領の在任期間は32日間。曇天の下、気温8.9度、冷たい風の吹き付ける中、1時間45分の就任演説を行った。それにもかかわらず、68才のハリソンは、手袋もオーバーコートも着用せず、帽子も被っていなかった。
 さらに連邦議会議事堂からホワイト・ハウスに馬車ではなく馬に乗って向かった。その途中、雨に降られて身体が濡れた。それだけではない。さらに三つの就任舞踏会に次々に顔を出した。
 寒さと過労が祟ってハリソンは風邪をひいた。風邪は肺炎を併発した。結局、それが命取りになった。
 臨時に就任した特例を除けば、アメリカ史上、最も短命な政権である。これ以上の最短任期はよほどのことがない限り、今後も現れないだろう。
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一日大統領

 臨時に就任した特例とは何か。何回かに一度、規定の就任日が日曜日にあたる場合がある。日曜日は安息日なので通例、就任式は行われない。
 歴史上、初めて就任日が日曜日と重なったのは1821年3月4日である。ジェームズ・モンロー大統領ジョン・マーシャル最高裁長官と相談して就任式を月曜日に延期した。モンローの一期目は3月4日正午に任期が切れる。大統領だけではなく副大統領の任期も切れる。
 1792年に制定された大統領継承法は、大統領と副大統領がいずれも不在の場合、上院仮議長が大統領の職務を執行すると定めていた。上院仮議長となっているのはなぜか。通常、上院議長は副大統領が務めるからである。副大統領が空席になれば、当然ながら上院議長も空席になる。
 上院仮議長はジョン・ゲイラード上院議員であった。理論的には3月4日正午にモンローの任期が切れてから翌日に大統領宣誓を行うまでゲイラードが大統領だったと言える。
 そうした問題は1849年でも解決されなかった。1849年3月4日正午に前任者のジェームズ・ポーク大統領の任期が切れる。本来であれば、そのすぐ後に次期大統領であるザカリー・テイラーが就任して大統領職を引き継ぐ。しかし、テイラーは3月4日が日曜日で安息日に当たるので就任宣誓できないと拒んだ。そこで1821年と同じく上院仮議長のデイヴィッド・アチソンが大統領に就任した。

デイヴィッド・アチソン
デイヴィッド・アチソン
 ただ実際のところ任期は24時間よりも短かったと考えられる。なぜならアチソン自身の上院議員の任期も3月4日に切れる。そして、アチソンが再任の就任宣誓を行ったのは3月5日にテイラーが就任宣誓を行う直前である。したがって、法的にアチソンが大統領の座にあったのはせいぜい数時間か数十分でしかない。後に「一日大統領」について聞かれたアチソンは次のように答えている。

「私は寝ていた。2、3晩、続けて上院で大変な仕事をやった後だった。そこで私は日曜日はほとんど寝ていた」

 また大統領は就任宣誓を済ませなくても前任者の任期終了時点で自動的に任期が始まるという考え方もある。そうなると「一日大統領」アチソンは存在しなかったことになる。それでも現在、アチソンの墓の傍には「一日大統領」を記念する銘板や標識が置かれている。
 現代では、就任日が日曜日にあたる場合、ごく小規模で大統領宣誓を済ませることになっている。そして、翌日の月曜に公式な就任式を行う。

一時的な大統領権限の移譲

 アチソンの他にも特例はある。例えば現職大統領が手術による麻酔で意識をコントロールできなくなる場合、一時的に権限が副大統領に移譲されることがある。最近の例ではロナルド・レーガン大統領は、手術を事由として、1985年7月13日午前11時28分から午後7時22分まで副大統領のジョージ・H・W・ブッシュに一時的に大統領権限を移譲した。約8時間、ブッシュは臨時大統領を務めた。確かな証拠のある中ではこれが最短の任期であるとも言える。