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アメリカ歴代大統領研究ポータル

奴隷から大統領になった男

明日は我が身とはよく言ったもの

 大統領の言葉は何でも記録に残されているもので、当然、他の大統領に対してどのような評価をしたか分かっている。中でもかわいそうなのがリチャード・ニクソンだろう。
 ニクソンはスタインウェイのピアノハリー・トルーマンに贈っている。トルーマンを「[ホワイトハウスで]最も優れたピアニスト」と褒めていたからだ。
 ニクソンが贈ったピアノは1937年にスタインウェイ社からホワイト・ハウスに貸し出されたものである。歴代政権を経てニクソン政権期までホワイト・ハウスに置かれていた。ニクソンはそれをトルーマン大統領博物館で展示するために、同博物館で働いていたトルーマンに贈ったという経緯である。
 ただピアノはスタインウェイ社からホワイト・ハウスに貸し出されたものであったので、本来ならばニクソンは勝手にトルーマン大統領博物館に移すことはできない。幸いにもスタインウェイ社がトルーマン大統領博物館に貸し出すことを認めたので、今でもスタインウェイのピアノは同博物館で展示されている。
 ニクソンから好意を寄せられたのにもかかわらず、トルーマンはニクソンを「奴は完全な嘘つきだ。嘘を付いていることも分かっていないだろう」と酷評している。

トルーマン大統領の書斎にあったスタインウェイのピアノ
トルーマン大統領の書斎(1948年)
 他にもトルーマンはフランクリン・ピアースを「ホワイトハウスでは最もかっこいい大統領だったが、大統領としてはブキャナンとクーリッジ[のように全く評価されていない大統領]と同じようなものだ」と酷評している。
 悪事千里を走るというわけではあるまいが、どうやら酷評のほうが多いような気がする。ウィリアム・マッキンリーは、後に自分の副大統領になるセオドア・ルーズベルトを「エクレアほどの背骨も持っていない」とこきおろした。同じようにユリシーズ・グラントは、「ガーフィールドは、ミミズの背骨さえも持っていないようだ」と言っている。
 カルヴィン・クーリッジは、同じ共和党のハーバート・フーバーを「奴は過去六年間、うんざりするような助言を私にしてくれたが、全部駄目だった」と罵倒している。フーバーはクーリッジ政権で商務長官を務めていたからである。ただフーバーを商務長官に選んだのはクーリッジではなく前任者のウォレン・ハーディングである。
 ジョン・クインジー・アダムズは、政敵であったアンドリュー・ジャクソンの死に際して、ジャクソンは「英雄、殺人者、姦夫」であったと述べている。「英雄」というのは数々の戦争で名を上げたからで、「殺人者」というのは決闘で相手を殺したことがあったからであり、そして、「姦夫」というのは妻レイチェルの離婚が成立しないままに結婚したからである。もしジャクソンの生前であれば、アダムズは無事ではすまなかっただろう。なにしろジャクソンはトマス・ジェファソンに「彼の情熱は恐ろしい。彼は危険な男だ」と評価されるほどであった。
 セオドア・ルーズベルトは、ベンジャミン・ハリソンを「最悪の大統領。冷血で心が狭く、偏見で凝り固まっていて、頑固で、臆病な年寄りの賛歌を歌っているインディアナポリスの政治家」とまで言っている。自分も後世の人々に何と言われるかを考えれば、ここまで酷いことはなかなか言えないような気がする。