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アメリカ歴代大統領研究ポータル

アメリカ大統領の暗殺
シークレット・サービスの歴史
 大統領が行く所にはどこにでも付いて行く黒いスーツの人々を一度はテレビで見かけたことがあるだろう。ただシークレット・サービスと一口に言っても、様々な職種がある。ハリウッド映画などで登場する大統領の護衛役は大統領警護部門に属する職員である。シークレット・サービスはどのような経緯で誕生したのか。
 実は建国当初、大統領の警護はまったく行われていなかった。なぜかと言えば、それは共和国の理念に基づいている。君主制の場合、暴君を排除する方法は殺すしかない。なぜなら君主制では通常、元首は終身だからである。
 その一方で共和制であればたとえ元首が圧政を行っても殺す必要はない。選挙で排除できる。そうした理念があったので、大統領の襲撃を企てる者がいるとは想定されていなかった。ホワイト・ハウスの敷地に勝手に入って建物の中を覗き込む者が後を絶たなかったほどである。
 大統領の警護を初めて考えたのはジョン・タイラー大統領である。タイラーは、アンドリュー・ジャクソン大統領の暗殺未遂を目撃した経験を持つ。さらにタイラーには多くの政敵がいた。命を狙われる危険がある。大統領の要請を受けた連邦議会は、4人の平服の護衛をホワイト・ハウスに配置することを決定した。護衛は「門衛」と呼ばれ、後にワシントン首都警察となった。
 1865年、エイブラハム・リンカン大統領は財務省内にシークレット・サービスを創設する法案に署名した。しかし、シークレット・サービスは創設当初、大統領の護衛が主任務ではなく、当時、横行していた偽造通貨を押収することが主任務であった。リンカーンとその家族はシークレット・サービスではなく首都警察に護衛されていたが、リンカーンが撃たれた日、ボディガードはその場を離れていた。
 ジェームズ・ガーフィールド大統領が撃たれた時にボディガードは近くに置かれていなかった。ガーフィールドの暗殺の結果、ようやく大統領の警護が見直された。
 ウィリアム・マッキンリー大統領の公式行事では、博覧会の警備員だけではなくシークレット・サービスが配置された。その当時、シークレット・サービスは大統領を護衛する任務を新しく担うようになったばかりであった。シークレット・サービスが付いていたのにもかかわらず、配置場所が悪かったために、マッキンリーを凶弾から守ることはできなかった。
 この事件が契機となって大統領の警護をさらに厳しくするように求める声が高まった。そうした世論を受けて財務省は、1902年、シークレット・サービスに公式に24時間、大統領を警護する任務を与えた。
 1922年、ウォレン・ハーディング大統領の要請によって、ホワイト・ハウス警察が設立され、ホワイト・ハウス警護の任務を担った。1930年、ホワイト・ハウス警察はシークレット・サービスの管理下に置かれた。
 最初に言ったように、シークレット・サービスは映画などで登場する大統領を警護する人々だけで構成されているわけではない。大統領警護部門の他にも本来の任務である偽造通貨、クレジット・カード詐欺、コンピューター詐欺を取り締まる部門や制服部門と呼ばれる施設の警護を主任務とする職員もいる。

大統領夫妻の左右を固めるシークレット・サービス(1925年)
大統領夫妻の左右を固めるシークレット・サービス(1925年)

偽造通貨を調べるシークレット・サービス(1938年)
偽造通貨を調べるシークレット・サービス

制服部門の警報装置(1938年)
シークレット・サービス制服部門
 シークレット・サービスが厳重な護衛を行っていたのにもかかわらず、ジョン・ケネディ大統領の暗殺を防げなかった。ウォレン委員会は、閣僚から構成される大統領の安全を監督する委員会の創設を提言した。また同委員会は、シークレット・サービスにさらに資金と人員を与え、関係各省庁が協力して大統領の安全確保に努めるべきだと主張した。
 そうした提言に基づいて、1973年までにシークレット・サービスの人員は3倍に拡大された。2003年、シークレット・サービスは13億ドルの予算を割り当てられ、国土安全保障省の下に置かれた。護衛の対象は、大統領と副大統領だけではなく、その家族、次期大統領、元大統領、元大統領の配偶者や子供、そして、外国の貴賓など多岐にわたる。
 職員は3万6,000人にも上るが、大統領警護を担当できるのは狭き門を潜り抜けたわずか100人程度の精鋭だけである。彼らは左襟に特別なピンを付けているのでそれと分かる。スペシャル・エージェントになる訓練を受けるためには身体能力試験と信用調査に合格しなければならない。射撃、格闘技、操車、救急医療、犯罪心理など様々な技術を習得し、ようやくスペシャル・エージェントになることができる。
 シークレット・サービスは隠しカメラとセンサーで24時間、ホワイト・ハウスの監視を行っている。毒ガスによる攻撃がないか空気のチェックを行うだけではなく、水中の毒物検知するシステムや放射能を計測するガイガー・カウンターまで駆使している。またホワイト・ハウスの見物客に不審な人物がいないかどうか、シークレット・サービスは見物客に混じって監視している。他には、ホワイト・ハウスの植物を食い荒すリスの捕獲に協力したこともある。
 大統領が外出する時はシークレット・サービスによってまさに鉄壁の防御がしかれる。暖かい日にコートを着用している者や不自然に新聞を手に持っている者など疑わしい行動を取る者をシークレット・サービスは監視している。もちろん大統領の訪問先は事前に徹底的にチェックされている。屋外で大統領が演説する場合やパレードする場合は、スナイパーが随所に配置される。