禿げ頭を隠さず
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昔は誰もが帽子を被るのが当たり前であった。1893年3月4日の就任式を見守る群衆もその大部分が帽子を被っていた。その日は風が強く、たくさんの人が帽子を飛ばされ、そこかしこで笑い声が上がっていた。
それを見たグローバー・クリーブランドは就任演説を始める前に帽子を脱いだ。他の人もそれに倣うだろうと期待したからだ。
クリーブランドの就任式(1893年3月4日)
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その日の気温は−3.9度。とても寒かった。クリーブランドが帽子を脱いだのを見た群衆は一斉に叫んだ。
「帽子を被れ」
なぜ群衆はそんなことを言ったのか。クリーブランドの禿げ頭を気にしてのことだった。寒さが禿げ頭にはこたえるだろうという気遣いである。ただクリーブランドはそうした気遣いを迷惑に感じたのか、帽子を脱いだままで敢然と就任演説を行った。
どうやら就任式の際に帽子をどう扱えばよいかは誰もが困る問題らしい。実はリンカーンもそうだった。
リンカーンの就任式(1861年)
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リンカーンが帽子の扱いに困っている様子を見かねたスティーヴン・ダグラスは「たとえ私が大統領になれなくても帽子くらい持ってあげてもかまわない」と言った。1860年の大統領選挙で敗北したダグラスだからこそ言える台詞である。 |
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